基礎と臨床をつなぐ神経機能診断
私たちは、神経の活動を波形として記録します。数字や線として示されるそれらは、一見すると明瞭で、客観的かつ信頼できるもののように見えます。しかし、脳や脊髄の手術中に波形がわずかに変化した場合、その意味を直ちに確定することはできません。その変化は、測定誤差である可能性もあれば、麻酔の影響によるものかもしれませんし、あるいは神経機能が変化し始めている徴候である可能性もあります。ここで問題となるのは、「どの解釈が正しいのかを、その場で判断する手段が存在しない」という点です。装置が示すのは、あくまで「現時点でこのような信号が観測されている」という事実にすぎません。その信号の臨床的意義や危険性を評価し、どのように対応するかを決定する責任は、最終的には私たち自身にあります。したがって私たちは、基礎研究、生理学、電気生理学によって蓄積されてきた知識を参照しながら、既存の知見や類似の状況を想起し、互いに検討を重ねたうえで判断を行います。これらの知識は重要な指針となりますが、決して万能ではありません。むしろ臨床の現場では、それらの知識だけでは十分に説明できない状況に直面することの方が少なくありません。だからこそ、新たなデータや説明の難しい所見、あるいは言語化しにくい違和感が生じるたびに、「すでに理解されていること」と「まだ理解されていないこと」を改めて整理し直す必要があります。その判断の妥当性は、多くの場合、手術終了後、あるいはさらに時間が経過してから検証されます。この過程は容易ではありませんが、科学の進歩は、しばしばこのような再検討の積み重ねによって達成されてきたのだと思います。本学会は、神経機能診断をめぐるこうした判断の難しさや不確実性を含む事象を持ち寄り、隠すことなく検討し、議論する場でありたいと考えています。完成された結論だけでなく、判断に迷った経験や、後に再考を要した事例を共有することが、次の理解の深化につながると考えるからです。私たちは、すべてを理解しているわけではありません。しかし、何が未解明であるのかを正確に認識し、問い続けることはできます。日常診療や測定の過程で生じた小さな疑問を見過ごすことなく、検討し、議論し、それらを次の世代へと引き継いでいく。そのような営みを進めていく中で、本大会がその一歩となるのであれば、これ以上の喜びはありません。
第48回日本脊髄機能診断学
会長 三島 大德
独立行政法人国立病院機構相模原病院 脳神経外科